大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)529号 判決

被告人 西条一雄

〔抄 録〕

論旨第一点について。

原判示の株式会社佐藤製作所は、農機具の製造販売を営む会社で、農機具製作に関する各種担当部門があり、それぞれに適当な名称が附せられているが、その中修理(サービス)工場、鋳物工場のように独立した建造物もあるが、大部分は接続した一個の建物で同製作所建物の主要部分を形成している。即ち同製作所正門から入つた所の左側にその一部が事務所となつている機械仕上工場並びにこれに相対する倉庫及び組立工場、更に組立工場から奥の方へ鍵の手なりに鍛造工場、熱処理工場、木工場等があり、右機械仕上工場と組立工場、事務所と倉庫との間には渡り廊下があつて接続しているし、組立、鍛造、熱処理、木工の各工場は互に接続して順次連絡交通できるようになつていて、工場の名称は作業部門が違うことを表現するだけで、工場単位毎に独立した別個の建造物があるわけではない。このことは原審及び当審における各検証調書に徴し明らかなところである。従つて右機械仕上工場から木工場に至る建物は構造上一体を為す一個の建造物と認められるのである。なるほど奥の方に建てられた木工場は機械仕上工場との距離が二十米以上もあるし、機械工場から組立工場に通じる渡り廊下は柱がなく、ただ鉄骨の桁が渡してありトタンの屋根で雨や雪を防ぐようにしてあるだけで、其の下をトラックが自由に往来できるようになつていることは所論のとおりであるけれども、右所論事実を以つてしても、右製作所主要建物がその構造上一個の建造物と認定する妨げにならない。而して昭和三十年十月十九日午前一時頃前記機械仕上工場には、終夜業をするため舟田善良外三名の工員が就労作業中であり、被告人は正門から入つて、工員達が作業中の状況を現認しつつ木工場まで入つて行き、木工場等を焼燬する目的にて同所の木屑にマッチで点火したが、夜警員青山研成の発見消火するところとなつてその工場焼燬の目的を遂げなかつた事実は被告人の検察官に対する供述調書その他一件記録上明白である。被告人がこのように機械仕上工場に人が現在することを認識しながらこれと一体を為し一個の建造物たる木工場に放火する所為は刑法第百八条の未遂罪を以つて論ずべく、当時右木工場内には人が居なかつたにしても同法第百九条の未遂罪に止まるものではなく、被告人が機械仕上工場を含めた全建物を火災のため烏有に帰せしめる目的まではなくかつその可能性がなかつたにしても、刑法第百八条に関する犯罪の成否に影響を来すものではない。所論は被告人が熱処理工場にいた金井の存在を認識していない旨主張するが熱処理工場に人が現存すると否とを問わず、刑法第百八条の犯罪が成立することは前段説明のとおりである。又被告人は人の現在しない木工場に放火したのみで機械仕上工場まで焼燬する目的はなくその可能性もなかつたから第百九条の放火罪が成立すると主張するが木工場で独立した建造物であることを前提とするもので採用できない。その他記録を精査しても所論主張の事実誤認、法律適用の誤はなく原判決は正当であるから論旨は理由がない。

(吉田作 渡辺辰 山岸)

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